さて今日は、本屋って趣味がバレるよな、という話です。まあ当り前の話ですけど。
世の中にはいろんなものを売っている店がありますけど、本屋ほど趣味がバレてしまう場所はないな、と思います。少なくとも、店員には丸分かりです。
例えば他の小売店のことを考えてみます。食料品や日用品なんかではそこまで何かが透けて見えるようなことはないし、服とか雑貨とかだと初めからその店自体がある程度のコンセプトでまとめられているのでどうということもない。音楽や映画にしても、そういうのが好きなんだな、という程度です。
でも本屋は違います。
例えばホモ雑誌を買っていく人はやっぱりそういう人なんだと思うし、男なのに女性が読むようなボーイズラブ雑誌を買っていく人はそういう系なんだろうなと思うし、オタク雑誌を買っていく人はそっち系なんだろう、というような具合です。女性なのに官能小説を買っていくとか、好青年っぽいのにロリコン雑誌を買うとか、いいおっさんなのにライトノベルばっかり買うとか。趣味とは違うけど、おっさんなのにバイト情報誌を買っていくとか、離婚の手続きなんて本を買っていくとか、ダイエットがどうのなんて本を買っていくと、うーんそうなのかぁといろいろと透けて見えてしまうことが多いです。
いやまあ、だからと言ってそうやって知りえた情報を何かしようなんてもちろん全然思わないわけなんですけど、本屋で買い物をするっていうのはいろんな意味で結構恥ずかしいことだよなと思います。
そういう意味ではネット書店っていう存在は便利だろうなって思います。本屋の話とは全然関係ないんですけど、昔誰かからこんな話を聞いたことがあります。amazon(もしかしたらamazonではなくて何か別のネット販売サイトだったかもしれないけど)で一番売れているのは、実はバイブなんだそうです。そうやって買いにくいものをネットで買えるようになってきたというのはやっぱりすごく便利なことなんでしょうね。
僕が今していて一番悲しい会計は、さっきも書いたけど普通のサラリーマンっぽい人なのにバイト情報誌を買っていくってやつです。あと履歴書とかもかな。不況なんだなという気がします。
えーと、さらに本屋の話とは関係なくなりますが、腕時計の話をしたいと思います。
僕は普段から腕時計をしていて(風呂の中でも外さない)、その時計で一日の生活をコントロールしてるんだけど、その時計の電池が切れてしまったようで交換してもらいにいきました。
交換自体は15分ほどで終わり(メーカーに持っていかないと防水機能に保証は出来ないですよ云々という話はあったけど。これからは風呂に入るときは外さないといけないらしい。でも昨日は取るの忘れた)、時計はまた時間を刻むようになったんだけど、一つだけ問題が。
時計が正確な時間に調節されていたんです。
僕の腕時計というのは、元々5分遅れているんです。別にそれ自体に特に意味はないんだけど、その5分遅れた時計で生活をコントロールしてるんで、もうそれに慣れてしまっているんです。だから、腕時計の表示が正確になってしまうと、その5分のずれを頭の中で修正しながら行動しなくてはいけないのでものすごくめんどくさいんです。
時計屋のおっちゃんとしては好意でやってくれたんでしょうが、僕としてはすこぶる迷惑でした。サービスというのは難しいものだな、と無理矢理そんな話に持って行ってみました。
そろそろ内容に入ろうと思います。
本書は、東野圭吾の最新刊です。
総理の元に、ある重要な情報がもたらされた。JAXA―宇宙航空研究開発機構というところが緊急にということだった。
それは、P-13現象と呼ばれる奇妙な予測についてのものだった。
3月13日13時13分13秒からの13秒間、宇宙全体がP-13現象と呼ばれる現象が起こるだろう、と科学者たちが予測した。P-13現象は、その変化を数学的に観測することが出来ないという意味ではほとんど取るに足らないものであるが、しかしそうとも言い切れない重要な事態なのだった。政府はこの情報を国民に公表しないことに決めるが、しかしその時刻の前後、様々な形で対策を取ることに決める…。
警視である久我誠哉は宝石店の強盗犯を逮捕すべく張り込んでいた。もうすぐ山場。捜査一課長から13時から20分間は危険な仕事に従事するなという指示が出たが、しかしここで犯人を取り逃がしたら捕まえるチャンスはない。
しかし弟であり所轄署の刑事である久我冬樹が現場をうろちょろしていたせいで逮捕劇は混乱を極めることになった…。
そして気づいたら冬樹は、荒廃した東京にいた。周囲には人の影が見当たらない。あちこちで事故や火災が起きているようだ。とりあえず周囲を歩きまわり、生存者を3名見つけた。どうなっているんだかもうさっぱり分からない。
どうみても、世界から人が消えてしまったようにしか見えない。何なんだこの世界は。
しばらくして、兄である誠哉が他の生存者を集め東京駅地下にいることが分かり、皆で集まった。誰ひとりこの状況を理解している人間はいない。混乱した状況の中で、誠哉は冷静に事態を見つめ、皆で生き延びるために最善の手を尽くすようリーダーシップを発揮する。
一体何が起こったのか?誰にも分からないまま、地震や台風に何度も襲われ崩壊していく東京で、彼らは必死で生き延びようとするが…。
というような話です。
かなり面白い作品だと思いました。東野圭吾は相変わらずうまいなと思います。時々ちょっと駄作はあるけど、まあ常に良作を書けるわけもないわけで、相変わらず基本的な水準の高い作家だなと思うわけです。
東野圭吾にしては、本作のようなエンターテイメントっていうのは珍しい気がします。大体ミステリーか、あるいはちょっと重いテーマを扱った作品というのが多い気がします。本書もミステリっぽい要素はもちろんありますが、それ以上に、荒廃した都市・東京でいかにして生き延びるかというサバイバルの部分がメインになっていきます。
生存者たちはとにかく苦境に立たされることになります。人が消えてしまったわけだから、システムが無人化しているものが多いとは言え、いずれ電気も水道も止まってしまう。食糧はコンビニやデパートやなんかから調達できるけど、生モノはすぐに痛んでしまう。火も起こせない状況が多いから、いきおいレトルトのものを生で食べることが多くなる。水が貴重だからトイレの問題も深刻だし、また度重なる地震や雨によって街そのものがどんどん崩壊して行って、居住できる建物もかなり制限されてくる。病気になっても薬を調達するのに困難を極める。瓦礫の山と化した都市では、数百メートル移動するのにも相当な苦労を要するのだ。
そんな様々な困難を乗り越えながら、彼ら生存者は何とか踏ん張って生きていく。彼らのリーダーとして信頼を集めている誠哉は、突然人が消えたんだから、突然人が戻ってくることだってあるかもしれない。皆それに希望を託して懸命に生きていく。
しかし何にせよ、誠哉の超人っぷりが際立つ作品です。とにかく思考力がハンパない。常に先の先まで読み、どうすれば生き延びることが出来るかということを常に優先して考える。それがどれだけ途方もないことに思えても、またどれだけ不合理なことに思えても、ほとんどの場合最終的に皆誠哉の意見に納得する。判断力や統率力が抜群で、誠哉がいなければ生き残りたちは早い段階で死んでいたでしょう。
しかし一方で、そんな誠哉の合理的な思考が、時には理想的すぎて受け入れられないという事態も引き起こす。いやこれがなかなか凄い。街と共に、これまでのすべての価値観が崩壊した世界の中で、一体何が善で何が悪なのかを常に問いかけ続ける作品なのだ。かつての世界で犯罪とされていた行為がこの世界ではどこまで悪なのか?そうしなければならないという理由で個人を捨てることが出来るのか?道徳とは何なのか?歩けなくなった人間をどうするか?危険に思える人間を仲間にすべきかどうか?セックスはどうするのか?そういう様々な出来事を通じて、様々な問いかけをするし、またいろいろと考えさせる。僕らが普段から正しい、当然だと思っていたことがいかに脆弱な土台の上に成り立っているのかということを思い知らされるし、特にその中で誠哉の合理的な思考・判断にはハッとさせられるものが多かったです。
僕は、誠哉ほど頭もよくないし判断力もないし統率力もないけど、でもその合理的な発想という点は近いものを感じました。先の先まで読むような思考は出来ないし、そもそも何としてでも生きてやろうなんていう気力に欠けるんで同じ状況に立たされても誠哉がしたような行動は取れないだろうけど、でも誠哉と似たようなことを考えるだろうなと思いました。
また僕は、河瀬という男にもかなり魅力を感じました。河瀬は元ヤクザで、元々仲間として受け入れるのに周囲が躊躇していたような存在でした。
しかしこの河瀬、場の雰囲気を変える力を持っているんです。頭はそこまでいい方ではないかもしれないけど、誠哉とは違った形で合理的な思考を持っているし、何が重要なのかも分かっている。行動力があり、無茶な行動によって何度も窮地を救うことになる。誠哉のようにリーダーとして周囲を引っ張っていく資質はないけど、でもいい意味でも悪い意味でも場を変える力を持つことの出来る河瀬の存在感はかなり大きかったと思います。
その他、登場人物をざっと書いてみましょうか。
ミオという名の娘を連れた白木栄美子。食べることが大好きな新藤太一。大手建設会社に勤めていたという技術屋のサラリーマン小峰義之と、同じ会社の専務である戸田正勝。女子高生で常に元気を失わないムードメーカー中原明日香。老夫婦である山西繁雄と春子。看護婦である富田菜々美。そして途中のマンションで見つけた赤ちゃん・勇人。と言ったようなメンバーです。
それぞれのメンバーが、過去にこだわっていたり、トラブルを起こしたり、助けたり助け合ったり、反発したり理解したり、名案を出したり力を貸したりと、それぞれの人々がいろんな形でメインとして描かれる形になります。そういう全体のバランスが凄くいい。特に僕は、山西春子のあの場面と、山西繁雄のシーンでの冬樹の行動と、常に冷静だったはずの小峰が最後の方で起こした大問題と、戸田と小峰のトラブルの際の誠哉の対応がすごく印象に残っています。それぞれが何なのかは是非読んでみてください。
あと、明日香っていうのはなかなかいいキャラでした。若さもあるんだろうけど、常に元気に振舞おうとして、諦めない。河瀬とはまた違った意味で雰囲気を掴む力を持っている。明日香と冬樹のやり取りも面白いなと思いました。
本書を読んでいると、危機に立たされた時に人間の本性というのは顕わになるのだろうなと思いました。僕なんかは、危機的な状況だと絶対に使い物にならないです。周囲に迷惑を掛けるような面倒なトラブルは起こさないと思うけど、別に可もなく不可もない、ただいるだけという存在になるでしょう。まあそれでも、周りに迷惑を掛けないだろう、という点ではマシだと思いますけど。
本書でも、前の世界での存在に依存して危機に立ち向かえない人がたくさん出てきます。それはつまり弱さなんだけど、でも誰もが誠哉のように強く生きていけるわけがないんです。僕もきっとそういう弱い側の人間でしょう。っていうか、誠哉が例外的に強すぎるだけだと思うけど、そういうようなことも考えさせる作品だなと思いました。
そういえばまだ書くことがあった。本書のミステリ的な部分は、P-13という現象そのものなんだけど、これはある作家のある作品にちょっとだけ似ているという気がしました。作家名は出してもいいかなと思ったけど、それだけでも読んだ人にはバレる気がするんでイニシャルだけ。K.Iです。何となく似ているなと思いました。いや似ていたからと言ってこの作品がダメなんてことはもちろん全然ないんですけどね。
というわけで非常に面白い作品でした。東野圭吾の作品らしく読みやすいし、ページ数は結構あるけどさらっと読めてしまいます。帯に「数学的矛盾」とか書いてありますけど、数学とかほとんど関係ないので安心してください。是非読んでみてください。
東野圭吾「パラドックス13」