2009年07月08日

妻を帽子とまちがえた男(オリバー・サックス)

今日は時間がないので、早速内容に入ろうと思います。
本書は、なかなか変わったタイトルの本ですが、大雑把に言えば脳に何らかの障害を持つことで不思議な症状が現れた人々について、実際に彼らの治療に当たっている著者が書いたノンフィクションです。
本書では、24人の患者が紹介されています。そのすべてを紹介するのはちょっと厳しいので止めますが、こんな患者の話がありますというのをいくつか書いてみようと思います。

「ただよう船乗り」
記憶が25年前でピタッと止まってしまっていて、新しいことがまったく覚えられない男

「妻を帽子とまちがえた男」
人の顔を認識することができなくなり、妻の頭を帽子と間違えてかぶろうとした男

「からだのないクリスチーナ」
五体はすべてあるのに、四肢がなくなってしまったというような感覚に襲われ、体をまったく動かすことができなくなってしまった女性

「追想」
ある夜突然、昔子供の頃に聞いていた故郷の音楽がエンドレスで頭の中で流れ出した女性

こんな感じで、ありとあらゆる奇妙な症例をとりあげて、それぞれの患者との関わりについて書いています。
面白いのは、本書は知識を深めるための本ではない、ということです。神経生理学の用語や概念なんかもそれなりに出てくるんだけど、でもそういう知識がメインになるわけではありません。また、何が原因でその症状が起こり、またそれをどういう風に克服したのかというような部分がメインというわけでもありません。本書は、そういう様々な障害を持った人々を学問上の観点から一括りにするのではなくて、それぞれの患者がどういった世界の中に住んでいるのか、何を感じどう考えているのか、そう言った部分を丹念に掘り起こしています。珍しい症例ということで病気そのものを描いているというのではなくて、まさに目の前にいるその患者自身のことについて書いている、という感じです。こういう感じの作品は大抵、こういう珍しい症例がある、という病気を描く観点からの作品になりがちだと思うので、珍しいんじゃないかなと思いました。
他にもいろいろと興味深い話はありました。
ある患者は、脳のある部分が死んでしまったために完全に盲目になったのだけど、本人はそれに気付かなかったという。何故ならその患者の中から、「見る」という概念そのものが消えてしまったらしいのだ。見えるはず、という概念があって、その上で盲目になれば気づくだろうけど、見えるはずという概念がなくなった上で盲目になればそのことには気づかないでしょう。
ある男は、夜中に突然ベッドから落ちた。事情を聴いてみるとどうもこういうことらしい。目が覚めると、ベッドの中に見覚えのない足があった。誰かが死体置き場から足だけ持って来て自分のベッドに入れたに違いない。悪ふざけにもほどがあるが、とにかく気持ち悪いからその足をベッドから放り投げた。すると自分の体も一緒に投げ出されてしまった、と。その患者は、自分の足が自分の足であるように感じられなくなってしまったのだ。
テレビで大統領の演説を見て失語症患者が大笑いしている。大統領は真面目に真剣な演説をしているにも関わらず。失語症患者は、相手の言っている言葉を理解することが出来ないことが多い。でも、身振りや表情や声の調子から相手が嘘をついているかどうかというのがはっきりわかるというのだ。失語症患者は大統領の演説を聞いて、彼は嘘をついていると判断した。だから大笑いしていたのである。
本書では、実に様々な事例が扱われていてとても興味深いです。今まで聞いたことのないような症例もあるし、聞いたことがあっても詳しくは知らないものもありました。しかし何よりも面白いのは、そういう障害を抱えていると分かった時のそれぞれの患者の反応や対応の仕方です。ある老人は、周りの人間から歩いている時に傾いていると言われるようになった。しかし本人にはその意識がない。著者のところへやってきて、ビデオに撮られた自分の姿を見てやっと自分が歩いている時体が傾いていることを認識した。そこからの、彼の対応が素晴らしかった。落ち込んだり悩んだりするのではなくて、現実的にどうしたらいいのかということを考え始め、そしてすぐに素晴らしい方法を思いついてしまうのである。
また別の女性は、とある障害によって性格が明るくなった。周りの人に、性格が明るくなりすぎたと言われて病院にやってきたんだけど、確かにそれは障害によるものだった。そこでその女性はこういうのだ。これ以上病気が悪化するのは望まないけど、しかし病気を完治させてしまうことで今の明るい性格を失いたくはない、と。
本書では、根本的な解決の望めない難しい障害を抱えながら、それでも現実的な対応を常に考え、前向きに努力していこうという人々の姿が多く描かれます。そこがやっぱりいいなと思いました。もちろん、うまくいかない話もあるし、残念な話もあるけど、人間の強さみたいなものを感じられる作品だと思いました。
堅苦しくない作品です。軽く読めるエッセイという感じの作品です。ちょっと面白そうだなと思ったら、是非読んでみてください。

オリバー・サックス「妻を帽子とまちがえた男」



 

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病気について語ること、それは人間について語ることだ??。妻の頭を帽子とまちがえてかぶろうとする男。日々青春のただなかに生きる90歳のおばあさん。記憶が25年まえにぴたりと止まった船乗り。頭がオルゴール..
『 妻を帽子とまちがえた男』 オリバー サックス (著)【Anonymous-source】 at 2009年07月08日 21:48