2009年08月05日

マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実(西岡研介)

さて今日も時間がないので本屋の話は省略します。
本書は、「週刊現代」で連載されていた記事を再構成した(たぶん)作品だと思います。
本書で扱われているのは、JR東日本の唯一にして最大の問題と言われ、またマスコミの間では長い間タブーとされてきた問題です。かつて「習慣文春」誌上でこの問題について取り上げた時、JR東日本はキオスクでの販売停止、広告の拒否というとんでもない圧力を掛けてきて、結局文春側は謝罪広告を出すことになるという事態に発展しました。それまでもこの問題はタブーとされていたようですが、それを機に一層触れてはならないものとなったようです。
その問題というのが、JR東日本が革マル派と呼ばれるテロリスト集団に乗っ取られている、というものです。そしてその中心にいるのが松崎明という男です。本書では、国鉄解体時からいかにして松崎が力を持つようになっていったのか、そして松崎の横暴によってJR東日本がどれほど歪んだ組織になっているのかということを明らかにしていくわけです。
松崎という男は何者なのかというと、JR東日本の労働組合の会長です。でもJR東日本の社員ではない。かつては機関士だったのだけど、何かの理由で辞め、しかしJR東日本労働組合には残り、そこで権力をふるい始めた、というような人物です(何か記述に間違いがあったらすいません)。
JR東日本という会社は、大雑把に言ってしまえばこのJR東日本労働組合に支配されていて、そしてそのJR東日本労働組合のトップにいるのが松崎というわけです。
JR東日本にはいくつかの労働組合の集団があるんですが、しかし『JR東日本労働組合でなければ人にあらず』と言われるほど絶対的な力を持っています。JR東日本労働組合の人間が、他の組合の人間と個人的に会うというだけで破壊行為だとされ、その後執拗ないじめにさらされるんだそうです。
すごいなと思ったのが、そのいじめが乗客の安全を無視して行われるということなんです。運転士を寝させないことで事故を起きやすくするとか、信号を故意に隠すとか、置き石をするとか、そういう行為を平気でやるんです。そうやって、恐怖によって縛りつけることで、JR東日本労働組合は絶大な権力を保持することになり、その力は、JR東日本の経営陣をも屈服させてしまうわけです。松崎は人事権や経営権にも口を挟み、まさにやりたい放題。組合員から金を吸い上げる仕組みを生み出し、それによって別荘や高級外車を買ったりと放蕩三昧。しかしそんな松崎を周囲は抑えられず、傍観するしかないという状況です。
警察OBを取り込み捜査を妨害したり、デジタル警察無線を傍受したりということまでやるし、革マル派の人間を動かし盗聴や尾行などは日常的に行われている。まさに松崎はテロリストそのもので、JR東日本は未だにそのテロリストを排除出来ずにいる。
本書では、松崎という絶対権力者を中心に、いかにJR東日本が歪んだ組織であるかというのを明らかにしていく作品です。
ここに書かれているようなことはまったく知らなかったので、これは凄いなぁと思いました。松崎がいかにしてJR東日本を乗っ取ったのかという話や、松崎をトップとして革マル派のメンバーがどんなことをしているのか、JR東日本がいかに組織として崩壊しているのかという部分ももちろん驚きましたが、僕が一番驚いたのは、乗客の安全を無視してでも『反乱分子』をいじめ抜くというその姿勢です。
ある社員に嫌がらせをすると決めたらもうすごいです。運転士の後ろに立って、運転中に嫌がらせをするとか、周りに一般の乗客がいる前で大人数で運転士を拉致するなんていうことが日常的に行われていたんだそうです。運転士に事故を起こさせて辞めさせるという発想が普通にあったようで、そもそも乗客の安全なんていう視点はどこにもないわけなんです。この話は一番衝撃でしたね。かなり公共性の高い企業でありながら、乗客の安全を無視するようなことが普通にまかり通ってしまうような組織はダメだろうと思うわけです。
著者はこのJR東日本の問題を「週刊文春」で連載しようと思っていたのだけど、かつてのトラウマから「週刊文春」での連載は不可能だと判断。その後、書籍化しないかという話はいくつかあったものの、週刊誌の連載でやらなくては意味がないと固く思い、最終的に取材班ごと「週刊現代」に移籍しそこで連載をすることに決めたんだそうです。さすがに今回は、キオスクでの販売停止とか広告の拒否みたいなことにはならなかったようですけど。ただ松崎一派からの反応は凄かったみたいです。またJR東日本の広報に何度も取材を申し込んだんだけど、「貴殿には回答しない」という返答以外はもらえなかったらしいです。JR東日本というのは就職ランキングでもかなり上位に位置する会社らしいんだけど、そんな会社の中がこんな風になってるなんて普通は知らないですよね。
本書の中で、早稲田大学の改革の話が出てきます。早稲田大学というのは革マル派の結党以来30年間革マル派の温床となり続けていたらしいんだけど、それを改革した人の話が載っていました。これは興味深かったですね。JR東日本が革マル派を駆逐出来ないのに対し、奥島さんという元総長は8年間戦って革マル派を駆逐することに成功したんだとか。JR東日本もそれぐらい頑張って健全な企業になってほしいものだなと思いました。
テレビや新聞なんかを読んでるだけでは絶対に知りえないような問題だと思います。電車に乗らない人というのはあんまりいないと思うので、割と関心が持ちやすいんじゃないでしょうか。ぜひ読んでみてください。

西岡研介「マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実」



 

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この記事へのコメント
こんばんは。

革マル派ですか? う〜〜ん、昔の学生運動を知る身にとっては、懐かしい言葉ですねぇ。しかも「かくまるは」と入力したら、一回で「革マル派」と変換できたことも凄いと思いました(笑)。
そうなんですよ。JRではなく、昔の国鉄時代から、国労(国鉄の労組)=革マル派、ということは充分知られていましたよ。早稲田大も…。早稲田の革マル派は撤退したのですか。こちらは初耳ですが、好かったですね。
労働組合は労働者の権利を守るということが前提に生まれたものと思いますが、段々組織が巨大化すると、その組織を死守ことが最大の課題になって、一部の幹部の官僚化が起きるのでしょうね。かつての中国の共産主義のように。何か、人間ってダメだなぁ、と情けなくなりますよね。永遠に権力闘争を続ける気なのでしょうか(泣)。
しかし、この内部告発は勇気が要ったことでしょうね。安全第一の公共機関がこんなことで果たして好いのか? こんな時こそ、警察権力に介入してもらいたいですよね。JRは利用しない訳にいきませんので、困りますし心配です。

ところで、今日は中村弦さんの『天使の歩廊』を読みました。日本ファンタジー大賞だそうですが、天才(奇才?)建築家の話です。どうして建築の話ばかりなのか不思議に思いましたら、協賛が清水建設ということが分かり納得しました。この連作短篇はお薦めです!

通りすがりさんの職場では、由々しきことが起きているそうですが、書店員は通りすがりさんの天職です。何とか踏みとどまってくださいね。おばさんとして、陰ながら応援しています。売り上げの問題でしたら、ちょっと足を伸ばして貢献させていただきますので、お知らせくださいね。
Posted by ドラ at 2009年08月05日 22:14
こんにちわです。

学生運動とか名前でしか知らない身としては、なかなか想像しがたい世界ですね。この本を読んでも、結局「革マル派」がなんなのか分からなかったですからね。僕のパソコンでは、「かくまるは」は一発では変換されませんでした(笑)
なるほど、国鉄=革マル派というのはよく知られていた話なんですね。じゃあやっぱり、みんな知ってるけど暗黙のタブー、みたいな感じなんでしょうね。さすがに僕らの世代にみたいに、学生運動とか知らないような人たちは知らないでしょうけど。

最近ニュースで、セブンイレブンの労働組合が出来た、というのを見ました。セブンイレブンは、労働組合が出来そうになると即座に潰してきたという歴史があるみたいなんですけど、賞味期限が切れそうになったものを値引き販売させないというのが公正取引委員会から排除命令が出ましたよね?たぶんあの流れを受けてのことなんじゃないかなと思います。何にしても、労働者の権利は大事ですからね。組織の維持というのはどうでもいいんですけど。
本書では、仮名で何人もの人が内部告発をしています(著者は週刊誌の記者なので、JRの人ではないんですけど)。みんな尾行とか盗聴とかを恐れているようです。すごい会社ですよね。

日本ファンタジーノベル大賞は粒ぞろいでいい作品が多いですからね。気にしてみます。しかし最近、新刊をあんまり読まなくなっちゃったからなぁ。最近どんな作品が出ているのかついていけてないですね。

ウチで起きているのは、売上とかの問題ではないんですよね。でも、そういってもらえると嬉しいです。
もうとにかく純粋に僕が問題児だから、というのが理由なんですけど、どうしたものでしょうか。自分の信念みたいなものを曲げて天職を続けるか、信念を貫くか、という感じでしょうか。まあいずれにしても、しばらく頑張ってみますけど。お気遣いありがとうございます!
Posted by 通りすがり at 2009年08月06日 12:37