さて今日も時間がないので本屋の話は省略します。
本書は、「週刊現代」で連載されていた記事を再構成した(たぶん)作品だと思います。
本書で扱われているのは、JR東日本の唯一にして最大の問題と言われ、またマスコミの間では長い間タブーとされてきた問題です。かつて「習慣文春」誌上でこの問題について取り上げた時、JR東日本はキオスクでの販売停止、広告の拒否というとんでもない圧力を掛けてきて、結局文春側は謝罪広告を出すことになるという事態に発展しました。それまでもこの問題はタブーとされていたようですが、それを機に一層触れてはならないものとなったようです。
その問題というのが、JR東日本が革マル派と呼ばれるテロリスト集団に乗っ取られている、というものです。そしてその中心にいるのが松崎明という男です。本書では、国鉄解体時からいかにして松崎が力を持つようになっていったのか、そして松崎の横暴によってJR東日本がどれほど歪んだ組織になっているのかということを明らかにしていくわけです。
松崎という男は何者なのかというと、JR東日本の労働組合の会長です。でもJR東日本の社員ではない。かつては機関士だったのだけど、何かの理由で辞め、しかしJR東日本労働組合には残り、そこで権力をふるい始めた、というような人物です(何か記述に間違いがあったらすいません)。
JR東日本という会社は、大雑把に言ってしまえばこのJR東日本労働組合に支配されていて、そしてそのJR東日本労働組合のトップにいるのが松崎というわけです。
JR東日本にはいくつかの労働組合の集団があるんですが、しかし『JR東日本労働組合でなければ人にあらず』と言われるほど絶対的な力を持っています。JR東日本労働組合の人間が、他の組合の人間と個人的に会うというだけで破壊行為だとされ、その後執拗ないじめにさらされるんだそうです。
すごいなと思ったのが、そのいじめが乗客の安全を無視して行われるということなんです。運転士を寝させないことで事故を起きやすくするとか、信号を故意に隠すとか、置き石をするとか、そういう行為を平気でやるんです。そうやって、恐怖によって縛りつけることで、JR東日本労働組合は絶大な権力を保持することになり、その力は、JR東日本の経営陣をも屈服させてしまうわけです。松崎は人事権や経営権にも口を挟み、まさにやりたい放題。組合員から金を吸い上げる仕組みを生み出し、それによって別荘や高級外車を買ったりと放蕩三昧。しかしそんな松崎を周囲は抑えられず、傍観するしかないという状況です。
警察OBを取り込み捜査を妨害したり、デジタル警察無線を傍受したりということまでやるし、革マル派の人間を動かし盗聴や尾行などは日常的に行われている。まさに松崎はテロリストそのもので、JR東日本は未だにそのテロリストを排除出来ずにいる。
本書では、松崎という絶対権力者を中心に、いかにJR東日本が歪んだ組織であるかというのを明らかにしていく作品です。
ここに書かれているようなことはまったく知らなかったので、これは凄いなぁと思いました。松崎がいかにしてJR東日本を乗っ取ったのかという話や、松崎をトップとして革マル派のメンバーがどんなことをしているのか、JR東日本がいかに組織として崩壊しているのかという部分ももちろん驚きましたが、僕が一番驚いたのは、乗客の安全を無視してでも『反乱分子』をいじめ抜くというその姿勢です。
ある社員に嫌がらせをすると決めたらもうすごいです。運転士の後ろに立って、運転中に嫌がらせをするとか、周りに一般の乗客がいる前で大人数で運転士を拉致するなんていうことが日常的に行われていたんだそうです。運転士に事故を起こさせて辞めさせるという発想が普通にあったようで、そもそも乗客の安全なんていう視点はどこにもないわけなんです。この話は一番衝撃でしたね。かなり公共性の高い企業でありながら、乗客の安全を無視するようなことが普通にまかり通ってしまうような組織はダメだろうと思うわけです。
著者はこのJR東日本の問題を「週刊文春」で連載しようと思っていたのだけど、かつてのトラウマから「週刊文春」での連載は不可能だと判断。その後、書籍化しないかという話はいくつかあったものの、週刊誌の連載でやらなくては意味がないと固く思い、最終的に取材班ごと「週刊現代」に移籍しそこで連載をすることに決めたんだそうです。さすがに今回は、キオスクでの販売停止とか広告の拒否みたいなことにはならなかったようですけど。ただ松崎一派からの反応は凄かったみたいです。またJR東日本の広報に何度も取材を申し込んだんだけど、「貴殿には回答しない」という返答以外はもらえなかったらしいです。JR東日本というのは就職ランキングでもかなり上位に位置する会社らしいんだけど、そんな会社の中がこんな風になってるなんて普通は知らないですよね。
本書の中で、早稲田大学の改革の話が出てきます。早稲田大学というのは革マル派の結党以来30年間革マル派の温床となり続けていたらしいんだけど、それを改革した人の話が載っていました。これは興味深かったですね。JR東日本が革マル派を駆逐出来ないのに対し、奥島さんという元総長は8年間戦って革マル派を駆逐することに成功したんだとか。JR東日本もそれぐらい頑張って健全な企業になってほしいものだなと思いました。
テレビや新聞なんかを読んでるだけでは絶対に知りえないような問題だと思います。電車に乗らない人というのはあんまりいないと思うので、割と関心が持ちやすいんじゃないでしょうか。ぜひ読んでみてください。
西岡研介「マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実」