どうも寝れないんで感想でも書いてみます。あんまり時間をかけたくないんで、本屋の話は省略。
内容に入ろうと思います。
主人公は、25歳のフリーター・誠治。二流の私立大学を卒業し就職したものの、何となく嫌気が差して三ヶ月で退職。実家で親の脛をかじりながら、適当にバイトをするという生活になる。当初はやっていて就職活動も段々おざなりになっていき、誠治は完全にフリーターとして生活をしていた。働いていたバイト先も適当に辞めてしまうほど、やる気も根気もなかった。そのくせ、まだ若いしなんとかなる、自分がやるべき仕事はどこかにある、と信じているような男だった。
そんなある日。ようやく誠治は母親の異変に気づいた。知った、というべきだろう。名古屋に嫁いだ姉が返ってきているのを見て、ようやく事態を知ったのだ。
母親は、重度の精神病に掛かっていた。
誠治は知らなかったのだけど、姉の話によれば、母親は20年来近所の人から嫌がらせをされていたらしい。誠治の就職の問題や、慢性的な父親の無理解なんかも加味され、母親は精神に異常をきたしてしまったのだ。
もの凄い剣幕で父親を罵倒する姉を見て、誠治は心を入れ替えた。何とかしなくちゃ。とりあえず、就職してお金を貯めないと。母親のストレスは、この家に住んでいることから来ている。この家に住んでいる限り、母親の病状はよくならない。父親は、自分の趣味には金を使うが、精神病は心が弱いからだと言って引越しの必要性を理解しない。何にせよ、父親を説得する段階である程度金が貯まっていないとダメだ。
そこから誠治は、ギリギリ第二新卒として就職活動を始めるのだが、これが箸にも棒にも掛からない。すぐに会社を辞めたことや、バイトが長続きしないことを責められるとどうしたらいいのか分からないのだ。
そんな誠治が、母親の面倒を見ながら就職活動を続け、最終的に就職が決まり、そこで思い切ったように仕事をするようになるまでの話を描いた作品です。
相変わらずですけど、有川浩の小説はとんでもなく面白いですね。つい最近「植物図鑑」を読んだんですけど、このレベルの作品を立て続けに書けるっていうのが驚異的ですね。
作家の力量としては、恐らくトップクラスでしょう。出す作品すべてが標準を遥かに超えるもので、しかも作風が多彩。恋愛モノの小説では無敵の強さを発揮するという強みもあるし、まさにイチローみたいに完璧だなと思っています。
例えば東野圭吾なんかと比べた場合、東野圭吾は「白夜行」「秘密」「手紙」と言ったような超ド級の傑作をいくつも物している一方で、さほどでもないというレベルの作品も結構多い。作品によってばらつきがかなりあって、作家としての力量はもちろんあると思うんだけど、安定感が今一つかなと思うんです(それでも、そこらの作家と比べれば遥かに凄い作家ですけどね)。一方で有川浩の場合、駄作というのがほとんどないと思うんです。今まで、これはつまらなかったなぁとか、これはちょっと普通だなぁみたいな作品が一作もないんです。どの作品も、超をいくつつけてもいいくらい面白い。出す作品出す作品常にこのレベルの水準を維持出来ている作家って、本当に一握りではないかなと思うんです。そういう意味で、有川浩の作家としての力量はとんでもなく高いなと思います。
本書も、まあとにかく面白い。本書は、日経ネット丸の内オフィスでWEB連載した作品らしいんですけど、当初与えられたテーマは「新しい一日」と「オフィスと仕事」だそうで。正直、テーマに沿っている作品なのかどうかは微妙なところですけど。連載中も、読者に「暗い!」と驚かれたらしいし。
初っ端から母親が精神病になるんですから、そりゃあまあ思いですね。でも確かに、今の日本の場合、よほどのことがない限りフリーターでも生きて行けちゃうんですね。僕だってフリーターですけど、全然問題なく生きていけます。もちろん将来の問題とかいろいろあるだろうけど、そういうのを考えさえしなければ、とりあえず目先の時間だけは確保できてしまいます。そんな世の中にあって、実家にいて親の脛をかじっているフリーターが一念発起して就職活動を再開するにはそれ相応の理由が必要になるんだろうなと思います。本書の場合それが、母親の精神病なわけです。
しかし有川浩の小説はどれもそうだけど、初めの設定が見事ですね。本書の場合も、脛かじりのフリーターを始めとして、精神病になっちゃった母親、精神病の存在を認めないプライドの高い父親、常に正論で父親を完膚なきまでに追い詰める姉、というような、これだけの役者がそろっていてストーリーが展開しないはずがないという設定を用意するんですね。
でまあいろいろストーリーが展開していくんだけど、うまいですね、ホント。「フリーター、家を買う。」っていうタイトルだけから判断すると、ちょっと現実にはありえないようなストーリー展開を予想するかもしれないけど、実際は本書のどこを切っても現実的に展開していきます(まあ就職活動の経験のない僕にはそれが現実的かどうか判断できない部分もあるんだろうけど)。就職活動についても、母親の看病についても、父親の変化についても、なるほど実際起こりそうだなぁと思わせるような展開になっていきます。誠治は最終的に就職が決まるんですけど、それもなかなか面白い形で決まっていくことになります。
就職活動をしている間は、家族の問題も同時並行で問題が多発することになりますが、誠治の就職が決まって以降はあまり家族の問題がクローズアップされなくなり、誠治の仕事っぷりの描写がメインになっていきます。いままでダメダメだった人間が、ちょっと面白い立場で仕事をこなしていくという展開は面白いです。中でも、就職したばかりの誠治が、今度は人材を募集する側になるという部分は、それまでの経験が実によく活かされていて面白かったです。
職場では、豊川と千葉という二人の部下が出来るんですけど、この二人が実にいいんですね。有川浩の憧れのタイプを豊川と千葉に詰め込んだようで、僕も確かに豊川にも千葉にも憧れますね。こんな風になれたらいいだろうな、と思わせるキャラクターです。この職場での話も面白くていいですね。
本書の最後の最後に、ホントに少しだけ恋愛っぽい展開になるんだけど、これぞまさに有川浩の本領発揮という感じで、ホントに少ないページ数なのに、実にいい展開を描くんですね。ホント有川浩に恋愛小説を書かせたら鬼に金棒だなと思います。今日本で、有川浩ほど面白い恋愛小説が書ける作家はたぶんいないんじゃないかなと思います。
僕自身も実際フリーターでして、しかも状況は大分違うとは言え、家族との関係もあんまりうまくいっていません。僕自身就職する気がないなど、本書とはいろいろ異なる点もありますけど、でも読んでると身につまされるような感じがしました。僕はサラリーマンとして生きていくことは絶対に無理だと悟っているので(中学の頃からぼんやりとだけどそんなことを既に考えていたはず)、だから今フリーターとして生きているのは自分がそう望んでいるからなんだけど、まあそりゃ不安がまったくゼロというわけではありません。考えても仕方ないんで普段は考えないようにしていますけど、時々将来のこととかふと考えるようなことはありますね。でも、どのみちサラリーマンは無理なんで、フリーターでやっていかないといけないんですけどね。でも誠治みたいな感じの仕事だったらいいなぁ。弟が同じような仕事(一応ネタバレにならないようにどんな仕事か書かないようにしてるんだけど)をしてるから、いつか弟の下で働いてみようかな(笑)。
まあそんなわけでですね、有川浩は最強ですよ、ホント。どれ読んでも外れません。本書もとにかく面白いです。是非是非読んでみてください。
有川浩「フリーター、家を買う。」