2005年04月09日

赤緑黒白 Red Green Black and White(森博嗣)

ついにVシリーズ最終章。瀬在丸を初めとする彼らの物語もついに終焉を迎える。
最後の事件は、どこを切り取っても混沌としている。横糸のない蜘蛛の巣のようなものだ。中心からどの経路を通っても行き止まり。中心に戻らなくては別の経路に移ることもできない。
そして、一番問題なのは、どこに中心があるのかすらわからない、ということ。
何かを理解する、という行為に付きまとう困難さが、全てこの事件に凝縮されているように思う。自分の中で自然と作り上げている様々なものに視界を遮られ、まっすぐに何かを見れない状態を作り上げている。それが社会の構造であり、常識というものの役割なのであり、そこから脱却した位置にいる人間を自然と排除するシステムになっているのだと思う。
事件は唐突に、しかも劇的に始まる、マンションの駐車場で男性の死体が発見された。驚くべきはその装飾。全身をスプレーで真っ赤に塗られたその死体は、オブジェと呼んでもいいぐらいの見事さだった。しかも、被害者の名前は赤井。
事件の後、美登里と言う名の女性が保呂草の元を訪れる。赤井の婚約者だという彼女は、保呂草に事件のことで相談を持ちかける。帆山という推理作家が殺したに違いないから、それを証明してくれ、というものだった。一旦判断を保留し、保呂草は少しだけ事件を調べてみることに。
しかし、その後美登里が緑色のスプレーで装飾され死体で発見される。名前と色の法則性が指摘され、連続殺人だろうと考えられる。
予想通り、その後も、黒と白の殺人が起こる。一体誰が、何のために…
というような話です。
動機の曖昧さというか不安定さが森博嗣らしい。これほどに、「何故殺したのか」が理解しづらくて、しかし説明がないわけではなく、それを許容する世界を見せようとしている作品は珍しいと思う。
そう、わからないものを、わからないものとして伝える。登場人物はそのために配置され、文章はその姿勢に則って書かれている。そして、それを貫く。その力が森博嗣にはある。
もちろん、いつものメンバーのそれぞれの物語も、いつものように楽しめるし、それぞれそれなりに収束したりもする。もちろん収束も決着もせず、あるいは始まりですらあるものもあるけれど。
前に「四季」で書いたけど、二つのシリーズは、それぞれの最終章で完結するのではなく、「四季」シリーズ四部作で完結します。「四季」を途中で先に読んだからわかる記述もいくつかあったし、そういう点では先に読んでよかったかもしれないと思う。まさか、あれとあれがああで、あの人がああだったなんて、という驚きのために、再読したくなること必死でしょう。
そう、そして、あの人物も…。
是非、シリーズを通じて読んでみてください。
それではいつものを。

(前略)「これは、光の周波数の問題なんだ。つまり、音でいったら、高いか低いかの違いでしかないものなのに、しかし、人間は、それを三原色に分解して捉え、神経の信号として伝達する。色を混ぜると、その中間色になったり、何色もどんどん混ぜていくと最後は黒になったり…、そう、これ、すべて人の認識の問題だ。ようするに、自覚だよ。物理的な現象とは、最初から乖離している。だからこそ、思想的なもの、宗教的なものには、色のシンボルが似合うんだね。(後略)」

「(前略)今までレールの上を走ってきたからといって、ずっとレールから外れないと思うほうがどうかしている。そちらの方が不可解だ。
(後略)

(前略)
こうして考えてみると、子供たちが公園で普通に遊んでいられる軌跡、女性が夜遅くまで仕事をして一人で帰ることができる奇跡、そういった奇跡的に成立した危うさが、蜘蛛の巣のように現代社会を支えているのではないか、と思えてくる。糸の数が多いから完全だと思い込み、一本一本の糸が細くしなやかだから自由だと信じている。
(後略)

(前略)
彼等を殺人へと駆り立てたものとは、結局のところ、そういった「理由」ではなく、目の前にあった越えられない柵が、一瞬消えただけのことなのだ。ふと手を伸ばしてみたら、あるはずのガラスがなかった。自分を縛っていると思っていた鎖が、実は存在していなかった。
それに気づいた一瞬あとに、
自分の足許に転がる死体に気づいたことだろう。
(後略)

(前略)
「自分の前に立ちはだかる邪魔なものを取り除く」彼女は頬杖をつきながら、目を細めて話した。「端的に言えば、それは問題解決です。その邪魔なものが科学的な謎であれば、解決した者は科学者として成功し、その邪魔なものが技術的困難であれば、解決した者は一流のエンジニアになる。その邪魔なものが、たまたま生きた人間だったときには、解決に成功した者が、殺人者と呼ばれるのです」
(後略)

(前略)
「けれど、そんな矛盾を抱え込むことが、すなわち、人間として生きていく、成長していく、ということなんだと、そのうちに気づきました。しかも、そういった小さな矛盾を抱え込むことで、もっと大きな矛盾に立ち向かうこともできる。まるで、予防接種みたいなものだなって」
(後略)

(前略)
「自分を諦めさせるのは、いつだって自分だよ」
(後略)

(前略)
自分は、ここにいるのだろうか?
否、自分はここにはいない。
彼女は、自分の影を見ているのだ。
光が当たれば消えてしまう影を。
(後略)

(前略)
「あ、そういや、麻雀牌も、ほら」紫子が言った。「赤が中で、緑が発で、あと東南西北が黒くて、白がまっ白やん。あらま、もしかして、麻雀を意味してるんちがう?」
「だったら、大三元殺人事件だね」
(後略)

森博嗣「赤緑黒白」


赤緑黒白ノベルス

赤緑黒白講談社ノベルス

 

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森博嗣「赤緑黒白」読了【モンキーターン】 at 2005年11月19日 20:30