今日もちょっといろいろとありまして時間がないもので、書店の話は省略。確かに書くこともないんだけど、こう省略ばっかりっていうのも僕のポリシー的にいかんですね。
内容に入ります。
本書は3つの短編が収録されている作品です。大枠の設定としては、両親が死んで葬儀屋を継いだ森野という女社長が、死者に関わるちょっとしたトラブルを解決する、というような感じです。
「空に描く」
そんなに親しくなかった高校時代の同級生・佐伯杏奈が、父親の葬儀を森野の葬儀屋で行った。その後しばらくして杏奈がまた森野を訪ねる。何でも、誰かから父親が書いたと思しき絵が送られてきた。しかしその絵は、父親と母親と姉しか描かれていない。しかもその少し前、甥っ子が死んだ父親の幽霊を見た、というのだ。どうしたらいいのかよくわからないという杏奈に代わって、この件を調べることになるのだけど…。
「爪痕」
森野の葬儀屋に、一人の女性がやってきた。葬儀をやり直したいのだ、という。
事情はこうだ。先日森野の葬儀屋が執り行った妻を喪主とした葬儀だが、故人には愛人がいて、その愛人こそ私だ。故人は妻のことを悪しざまに言っていたので、妻を喪主とした葬儀には納得がいかない。だから、私を喪主にした葬儀をもう一度執り行って欲しい。そういう依頼だった。
もちろん森野は断った。しかしその後故人の妻から、葬儀をやり直したいという話があるようだが、という話が届く。さすがに事情を調べ始める森野だが…。
「想い人」
仙台に葬儀をやってもらったらしいとある老婦人がふらりと森野の葬儀屋にやってきた。何でも話を聞いてもらいたかったらしい。その話というのが生まれ変わりで、何でも死んだ夫の生まれ変わりらしい中学生が時々やってくるのだ、というのだ。
その中学生は、その老婦人の昔の話をかなり詳しく知っているらしい。当人でなければ知りえないようなことだ。昔の思い出話なんかに花を咲かせながらお茶を飲んだりするのだ、という。
しかし森野にはそれが、年寄りから金をせびろうという不逞の輩にしか思えない。気になって調べてみることにするのだが…。
というような話です。
僕の本作への評価は、作品としては決して悪くないんだけど、僕が本多孝好という作家に求めているものとはやっぱり違うんだよなぁ、という感じです。
本書は、「MOMENT」という作品の続編的な位置づけの作品です。とはいえ、「MOMENT」を読んでいなくても一向に構いません。「MOMENT」という作品では、神田という名前の病院の清掃のアルバイトをしている男が主人公で、そこにチラリと葬儀屋の森野が顔を出します。本書では主人公が森野で、神田がチラリと顔を出す、という感じになっています。
ストーリーはどれもなかなかよく出来ていると思いました。どの話も、葬儀屋という設定からあまり違和感なく進んでいく話だし、最終的な解決にしても、葬儀屋という立場、つまり死んだ人間を成仏させるのが葬儀屋だという森野のポリシーに沿っています。もちろん現実に森野のような探偵まがいのことをする葬儀屋はいないでしょうけど、特に設定的に違和感を感じるようなことはありませんでした。
話自体も、どれも家族的なものに根ざしている部分が多くて、しかもミステリチックなテイストになっている。「空に描く」では、絵の持つ意味が焦点になっていくし、「爪痕」では葬儀をやり直したいという女の正体が焦点になるし、「想い人」では生まれ変わりだという中学生の真意が焦点になる。それぞれミステリとしても悪くない完成度だと思います。まあでも、「爪痕」はちょっと無理があるかなぁ、と思いましたけど。残りの二つは、最後まで読むと、なるほどそういう事情でそういうことになったのか、という風に納得が行くんですけど、「爪痕」はちょっと納得しがたいという感じがありますね。何故そんなことをしなくてはならなかったのかという部分の説得力が少し弱いかなと思いました。
キャラクターも結構いいんです。僕は主人公の森野みたいなクールな女性は好きだし、従業員の竹井のような掴みどころのない男もいいと思います。新入社員として雇った桑田もすっとぼけたいい味を出してるし、ところどころ顔を出す神田はちょっと存在感は薄いけど、でも森野が神田を回想するような場面では結構変わった男だなと思えます。
それに、森野葬儀社は寂れた商店街の一角にあるんですけど、その商店街の人々とのやり取りなんてのもなかなかいいですね。森野はまだ20代後半で、葬儀屋の社長としても若すぎるし(そのせいで仕事を断られることもある)、商店街の集まりなんかでももちろん圧倒的に若い。その中にあって、周囲にうまく溶け込んでうまくやっているなんていうところも結構いいなぁと思いました。
というわけで、作品としてはまあまあいいかなという感じではあるんです。でもですね、これが本多孝好の作品だというのが納得いかないんです。これが誰か別の作家の作品だというなら、おお結構いい話を書くじゃないか、と思えるんですけど、本多孝好の作品としてはあんまり納得がいかないんですよね。
結局本多孝好への期待が大きすぎるんだと思うんですね。やっぱり初期の作品が凄すぎました。「Missing」や「MOMENT」や「Fine days」なんかは僕の中では凄すぎる作品なんです。すげぇ作家が出てきたな、と思いました、ホントに。でも、作品を出すに連れ、初期の頃の輝きみたいなのがどんどん薄れてきてしまっているという印象がどうしても強いんですね。「真夜中の五分前」とか「正義のミカタ」とか「チェーン・ポイズン」とかもちろん読んでますけど、やっぱり僕の中ではパッとしないんですね。そこがどうしても残念です。昔のような作品を書いてほしい、とか言っても、まあ難しいんでしょうけどね。
まあそんなわけで、作品単体で見ればなかなかいい作品だと思います。でも、本多孝好の作品のなかでは、やっぱりそんなに良いと言える作品ではないかなと思います。昔のような作品を生み出せないものでしょうかねぇ。
本多孝好「WILL」