改めて考えると、本を売るというのは本当に難しい仕事だな、と思います。
先日、ちょっと毛布を買いに行ったんです。デパートの寝具売り場とかじゃなくて、商店街にあるような布団屋さんに行ったんですね。でそこでいろいろ店員さんと話をしながら毛布を買ったんですけど、やっぱり自分のところで扱っている商品についてはよく分かっていますね。聞いたことにはきちんと答えられるし、聞いてないことまで助言してくれる。こういう商売をしてると、若い人が来ないからねぇ、とか言って値下げしてくれたんだけど、確かに売上的にはなかなか厳しいでしょう。それでも、自分が扱っている商品についてきちんと理解し、それをアピール出来るというのが小売の理想だよな、とちょっと思ったりしました。
また、つい最近、ユニクロの社長が書いた「成功は一日で捨て去れ」という本を読みました。ユニクロは、SPAと呼ばれる、企画から製造、流通販売までをすべて自社で行うやり方を採用しています。著書の中で、SPAが素晴らしい手法だという点をいくつか挙げていたんだけど、その中でも最も重要だなと思う点は、製品の魅力を最も分かっている人間が売る、という点です。他の小売店は、自分のところで作っていないものを売っているわけで、やはり作り手側の思惑をすべて汲み取ることは難しいかもしれません。一方でユニクロの場合、企画から製造まで自分でやっているので、その商品のアピールする点はどこなのかということを販売する側が最も分かっているんだと思います。いろいろ利点はあるんでしょうけど、僕が理解できる範囲ではこれが一番大きなメリットなのではないかなと思いました。
また、SPAを採用していない普通の小売店でも、自分たちが扱っている商品についてまだ理解するだけの余裕はあると思うんです。書店と比較すれば、ということですけど。というのも、新商品の出るスピードに圧倒的な差があるからです。
服でも食品でも薬でも何でもいいですけど、そういう一般的な小売店で扱われる商品が、どれくらいのスピードで新商品が出るのか僕は知りません。でも、本ほど早いということはないでしょう。本の場合、1日に200点新刊が出ると言われています。200点の中には、ほとんど自費出版に近いような、普通の中小の書店には流通しないような本もたくさん含まれているでしょうけど、普通の書店にも入ってくる本でも少なく見積もって一日で50点程度にはなるでしょう。
毎日50点の新製品が発売される、ということを想像してみてください。服とか食品とか薬とかでは、そんなことはなかなかありえないんじゃないかなと思います。
もちろん、その50点の中で、さらに書店員としてきちんと情報を押さえておかなくてはいけな重要な本は20点とかそれぐらいになるでしょう。それでも、毎日20点ぐらいは重要な新刊が出るわけです。
このスピードに書店員はついていかなくてはいけないわけです。しかも、本というのは、中身をきちんと理解しようと思ったら読むしかない。食品であれば食べればいいし、服であれば着てみればいいけど、本は時間を掛けて読まないといけないんですね。
そう考えると、書店員というのは、自分がほとんど理解できていないものを売っている職業だ、ということになってしまうんですね。
僕は3日に2冊ぐらいのペースで本を読んでいるし、自分が読んでいない本についても、評判とか売れ行きみたいなものをチェックしているけど、それでもまあ追いつけるわけがない。お客さんに聞かれて初めて出ていることを知る本もあるし、ある分野ではとても有名な人のことをまったく知らなかったりということはよくあります。どれだけ追いつこうとしても、本が出るスピードには到底敵いません。
出版点数は、これからも増えていくことでしょう。それは、出版業界の特殊な仕組みのために、避けられないことなんです。そうなれば、さらに書店員の知らない本が増えていくということになります。
それは確かに仕方のない状況ではあります。それでもやっぱり、扱っている物の魅力を伝えられない小売店というのは悲しいですね。だからこそせめて、自分が分かる範囲の魅力は伝えようと努力しないといけないなと思っています。本を売るっていうのは、本当に難しいです。
そろそろ内容に入ろうと思います。
生田は東京消防庁に所属する救急隊員だ。救急技術員という、要するに特殊車両を運転する役割だ。元暴走族上がりの生田は、顔こそ怖いけどその素晴らしい運転技術で多くの人から畏怖されている。
生田はつい二か月ほど前に渋谷消防署恵比寿出張所に移動した。それまでは消防車の運転のみだったが、ここでは救急車の運転もしている。そのために、救急医療のざっとした知識を突貫で仕入れているところだ。
いつものように出動を繰り返し、ガソリンを入れてから出張所に戻ろうかという時、道路脇で倒れて血を吐いている人の男が目に入った。慌てて救急車を停め、搬送準備を整える。
しかし救急車に乗せた途端、男はナイフを女性救命士の首に当て、命令を聞くように言った。救急車はジャックされてしまったのだ。悠木と名乗ったその男は、家族を人質に取られたらしく、携帯電話のテレビ機能を使って本当に犯人らしき男と連絡を取りながら何かをしようとしているらしかった。
何かあったら爆破させる。
救急車に爆弾を持ち込んだらしい。彼らの要求は、時間内に指定された病院まで辿りつけ、というものだった。一方で警察には計2億円のお金を要求する連絡が届くことになる。一体彼らの目的はなんなのか…。
というような話です。
まあそれなりに面白い作品だったかなと思います。
まず、救急車や出動の現場、出張所内の様子など、普段の救急救命士たちの日常的な部分がかなり細かく描かれていて、知らない世界を知るという点で面白かったです。救急車と消防車を両方運転する人がいるけど、どちらなのかによって求められる運転技術に大差があるとか、救急車で向かった現場でどういうことが起きるのかという話、救急車の内部がどうなっているのかや救急救命士に何が出来るのかということまで、実に詳しく書かれています。救急救命士たちのスタンスは素晴らしいなと思いました。最近タクシー代わりに救急車を呼ぶような輩がいるけど、それは結果的に問題がなかったというだけで、病院に搬送するまでは決して気を抜かない、というものです。
また、事件が発生してからも、なかなか緊迫感溢れる感じで良かったかなと思います。正直なところ、まあ犯人像の設定から考えれば仕方ないんだけど、爆弾を積んでいるとは言えやっていることは病院まで走るというだけなんで、もっとスリリングな展開の作品にも出来ただろうな、とも思います。まあでも、犯人側の目的を考えると、それがまあメインテーマなんだろうから仕方ないかなと。なるべくいろんな形で盛り上がるように話を組み込んでいるんで、頑張ったなという感じがします。
また、運転手である生田がなかなかいいキャラクターで、好感が持てました。同じ救急車に乗っている筒井という隊長や森という美人救命士もなかなかいいんだけど、やっぱり生田のキャラには勝てないですね。生田がいろんな形で空気を変えてくれるんで、作品の緩急がついたかなという感じがします。
またラストでは、メインのストーリーに関わっていない人たちのその後みたいな感じも描かれていて、それがまあ割とうまく収まっているんで、そんなうまくいかねぇだろとか思いながら、まあいい話かなとか思いました。
ただ、気になったところが二点。まず、犯人側の目的がちょっと分かりやすすぎるというか、まあきっとそういう感じなんだろうなと思った通りだったんで残念でした。僕は基本的にミステリとか読んでてもトリックとか全然理解できない人間なんだけど、本書は何となく全体の構図が分かりました。全部じゃないですけどね。だからミステリとしてはちょっと弱いですね。
あともう一つは、メインのストーリー以外にもサブのストーリーを組み込みすぎだなという感じがしました。メインはジャックされた救急車なんだけど、それ以外にも、テレビ局の新米社員とか、消防車は救急車の無線を聞くのが趣味の女の子、何人かの刑事の話など、ほんの僅かしか描かれない人がたくさん出てきます。もちろんメインの話以外にもいくつかストーリーがあってもいいですけど、ちょっとメイン以外のストーリーが多い気がしたし、書くなら書くでもう少しきちんと書いてほしかったなと思うところもありました。そういう部分がちょっと中途半端な気がしました。
まあでも、全体としてはそんなに悪くない作品かなと思いました。初期の頃の作品の方が好きですけどね。「それでも、警官は微笑う」とかメチャクチャ面白かったもんなぁ。やっぱりずっと面白い作品を書き続けるというのは難しいもんなんでしょうね。
というわけで、強くオススメすることはないですけど、軽く読める作品だと思います。それに、伝えたいメッセージがきちんとあるんで、そういう意味でも悪くない作品です。読んでみてください。
日明恩「ロード&ゴー」