ただ、敢えてこの第一作目だけの感想を書くならば、森博嗣ならもっとやれるだろうに、という感じです。なんというか、うまくは説明できないけど、地味になった、という感じがするわけです。
まずは内容に触れましょう。
矢吹早月は、友人の舟元茂樹の家に遊びに行った。その舟元が酒を買いに出掛けた時、部屋に女性の二人組がやってきて、合鍵で上の部屋を開けてくれ、という。どうやら舟元は、臨時の管理人代行だったようだ。舟元へ連絡し、了解を得てから鍵を開ける。矢吹はそのまま舟元の部屋に戻ったのだが…
その部屋は異常な装飾に彩られていた。おもちゃ箱が何箱もひっくり返し、クラッカーを何発も打った後のような部屋の中に、さらに異形の物体がある。
手首を天井に斜めに吊られ、Y字になったまま宙に浮いている男の死体。現場は密室。
矢吹は、中のいい後輩加部谷恵美(実は「幻惑の死と使途」に出てきている)と、中学時代からの無口な友人海月及介らに話をし、さらに昔の事件で加部谷が知り合いになった西之園萌絵(実は矢吹や海月とも面識がある)やらで、事件の謎を解いていく…
という感じなわけです。
なんというか、普通なんですよね、森博嗣にしたら。動機はいつものように普通じゃないけど、でも設定や場面がどうもありきたりというか…
僕は、僕だけじゃないと思うけど、S&Mシリーズのような、特異な人物が出てくるような、そういう話を待っているわけです。天才真賀田四季博士とか、数学者天王寺博士とか、「封印再度」の画家とか、「幻惑の死と使途」のマジシャンとか、「数奇にして模型」のアーティストとか。なんというか、そういう壊れてしまった人の思考なり思想なり、そうしたものに触れたい、と思っていたりするわけですね。
でも、まあまだ初めだし、これからどうなるか、っていう楽しみはありますね。それに、シリーズ第一作というのは、誰が探偵役なのかっていう興味もあるから、それはそれで楽しめたと思います。
是非とも、S&Mシリーズを超えるような作品になってほしいと思います。
それではいつものを。
(前略)
ただし、その安定感とは、現在位置からの移動の難しさを意味しているようだ。
(後略)
(前略)
事象の始まりとは、すなわち、意志の立ち上がりであり、決意し実行しようと最初の息を吸ったときには、多くの結果はほぼ決まっている、といえるだろう。
(後略)
(前略)
「教訓は認識するよりも、実践することに価値がある」
(後略)
(前略)そもそも、謎だと思うこと自体が主観がであり、基のデータには、客観的な謎が存在しているわけではない。多くの場合、それは単なる勘違い、すなわち、記憶間違い、あるいは見込み違いによって見かけ上生じている。
(後略)
(前略)
本当のところ、真実とは、けっして完全に目の前に姿を現すことはないのだから。
(後略)
森博嗣「φは壊れたね 」
Φは壊れたね講談社ノベルス