2005年04月23日

影踏み(横山秀雄)

僕らは、仕方ないとはいえ、人を見た目や立場で判断してしまう。色眼鏡で見てしまう。医者や弁護士だから安心だとか、犯罪者や浮浪者だからダメ人間だとか、そういう判断をしてしまう。それはそれなりに仕方のないことだと思う。
それぞれ理由がある。誰もが、認めたくはないかもしれないし、不本意かもしれないけど、自分の人生は自分で選び取っているわけだし、そこには、良し悪しきにつけ、理由がある。
もちろん、理由があれば犯罪をしていいのか、というわけではもちろんない。どんな理由があっても、犯罪を犯してはならない。それが、社会で生きていくためのルールだからだ。
それでも、やっていることは一緒でも、括りは同じでも、どんなに法が認めなくても、でも心情的に理解できる悪人というのは存在するだろう。
今回の主人公は、「ノビ師」。空き巣の一種で、家人が寝静まった夜忍び込み仕事をこなす。恐らく、「忍び込む」を略して「ノビ」なんだろう。
素直に、いい話だと思った。確かに、犯罪者だけれども、どこか芯が通っている。社会に対して(法律に対してというべきか)はまっすぐではないものの(むしろ、敢えて背を向けている)、自分や自分に属する者にはまっすぐいよう、という感じが見て取れる。
ある意味、「ノビ師」という職業だからこそできること、助けられる人がいる、という点では、清水の次郎長や、アルセーヌルパンに近いものがあるかもしれない。
「ノビ師」である真壁修一は、双子の兄として生まれた。弟と一緒に、ある一人の女性を好きになり、争った。女性は兄修一を選んだ。
弟は、受験に失敗したことがきっかけで空き巣になり、挙句捕まった。初犯ということで釈放になったのもつかの間、将来を悲観した母が家に放火。弟と共に心中を図る。助けようとして飛び込んだ父も死に、兄一人が残された。
その日、修一は法を捨てた。
大学の法学部に通い、弁護士資格も充分取れるだけの学力を持ちながら、修一は「ノビ師」になった。そして今では刑事の間で、「ノビカベ」とあだ名される程有名になった。
修一の耳の中には、弟啓二がいる。声だけの存在として二人は会話をする。弟と共に、昔取り合った女性久子を交えた三人が織り成す物語。
連作短編集という形である。さすがに短編作家としてデビューしただけあって、短編のキレが抜群にいい。それでは、それぞれの短編の紹介をしようと思う。

「消息」
刑務所からの出所。修一は、刑務所の中でもずっときになっていたあることを確認するために、新聞を捲る。
捕まった日のこと。いつものように夜忍び込んだ修一は、寝ずに起きていた女に見つかるも、彼女はなんの反応も示さない。急いで逃げるも、あっさり捕まった。
あの女は、旦那を殺そうとしていた。
そう結論付けた修一は、幼馴染の刑事や女の周囲を探るのだが…

啓二の記憶力の良さと、修一の頭の良さがよくわかります。本当に、「ノビ師」にしておくのがもったいないくらい。あと、出所後真っ先に久子の元へ行くのだが…

「刻印」
「消息」で出てきた、幼馴染の刑事が死んでいるのがみつかった。事故の可能性もあるが、修一は調べる。あの、旦那を殺そうとしていた女が関係しているはず、と踏んで。
しかし、どうやら女にはアリバイがあるらしい。しかも、とびきりの証人が。それでも修一は知り合いの元を回って情報を聞き出そうとするが…

やっぱミステリーだから、あんまり細かく書けないのが辛いところです。自分の文章を読んでいても、面白いとは思えないですね。
修一は見事刑事殺しの犯人を突き止める。ここでも啓二の記憶力が際立っている。そう、修一は初めの一度以来、久子の住む家には寄ろうとしない。

「抱擁」
久子は、修一と連絡を取りたがっている。新聞の尋ね人の欄に文章を載せたが、修一は連絡を入れない。
自分を追ってる探偵の存在を知り、依頼人が久子の友人であることを知る。修一は、署長の娘であるその友人に会うことに。
そこで、久子の勤める保育園で起こった、現金の盗難騒ぎの話を知る。久子が疑われている。少なくとも、同僚にそう思われている。それを知った修一は、真犯人を探そうと調べていく…

なるほど、という感じです。結末にしっくりきてしまうのは、やはり現実にそういう人を想像できてしまうからでしょうか?
久子の揺れる想い。啓二にも決断が迫られます。思わず、泣きそうになりました。

「業火」
この町で仕事をしている盗み連中が、悉く潰されている…そんな話を聞いたとたん、修一も襲われた。一瞬だけ形勢が逆転した時に聞いた「ジゴロ」の言葉と、盗みに入らなかったか、と問われた家。それだけを手掛かりに、修一は、何故自分がこんなめに遭ったのか調べていく。啓二が止めろ、と叫ぶほどに、修一は危ない橋を渡っていく…

修一は自分を曲げない。その裏に何かがあるのではないか、と思わせる程、自分の思ったことを貫く。どの世界でも生きていけそうな修一の強さを垣間見れます。

「使途」
刑務所にいた時の約束。サンタクロースをやってくれないか−そう頼まれた。
その男も「ノビ師」だった。毎年クリスマス、ある女の子にプレゼントを渡していたが、今年はこの通りつかまっちまって渡せない。これはノビ師にしかできない。頼む、引き受けてくれ−
その女の子の父親も盗みをやっていた。娘がねだるリカちゃん人形を盗み、警備員に見つかり、逃げる途中バイクに轢かれた。その一部始終をその女の子は見ていた…
修一はサンタを引き受けるが、「仕事」を終えたその時、警官らしき男に見咎められ逃げる。一体あれは誰だったのか…

一番いい話です。筋を通す男の優しさ、みたいなものが見えます。お勧めです。

「遺言」
一度会っただけの同業者が死んだ。意識不明だったが、その男は「マカベを呼べ」と何度も口走ったのだという。修一が見舞いに来たとたんに死んだ。
うわ言のように口走っていたスリ師用語。そん中男は、「父ちゃん、行っちゃやだよ、父ちゃん」とも言っていたらしい。修一は、一度会っただけの男に何故そこまで入れ込むのかわからないまま、その男の父親を探すことに…

修一は、かなり身を切って父親探しをする。たった一度会っただけの男のために。真壁修一という男の複雑さが見え隠れしています。

「行方」
ねぐらに久子がやってきた。相談したいことがあるのだという。
ストーカーのようなものに遭っている、という。お見合いして付き合うようになった文房具屋の男。真剣に付き合ってもいいと思っていたのだが、ある日デートに来たのは彼の双子の兄だった。修一と啓二のこともあって、双子を見分けるのは得意だ。
それきり、彼とは付き合わないときっぱり言ったのだが、それから嫌がらせをされるようになった、そう久子は言った。
と、その話をしているねぐらが火事に。必死で逃げる二人。放火だとわかった修一は、連絡のつかないという双子の兄を探すことに…

修一と啓二と久子。三人の抱えるものがここで集結し、終結する。そんな感じです。強がって自分から会おうとしない久子のために、修一は必死です。

どれも本当にいい話です。是非読んでみてください。

横山秀雄「影踏み」


影踏みハード

影踏みハード
 

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