内容に入ろうと思います。
本書は、社会党委員長だった浅沼稲次郎が、右翼の少年・山口二矢に公衆の面前で刺殺された事件を、浅沼や山口の生涯を丹念に追っていくことで描ききった作品です。
山口は、小さな頃から右翼的な思考や発言をする子供で、ある時愛国党の赤尾の演説を聞いて感激し、すぐさま愛国党の本部で寝泊まりするようになった。しかし、山口が考える右翼の理想と、現実の右翼の面々がやっている活動や思考との乖離に絶望し、次第に孤立していく。やがて、左翼の大物を倒さなければならないと思いつめるようになり、いかにして実行するか策を練るようになる。
一方の浅沼は、無産運動家から政治家になった男で、派閥を嫌い、最後まで庶民派と言われた。趣味もなく、家族をないがしろにし、ひたすらに党のために働き続けた浅沼は、しかし周りの人間にもあまり評価されなかったようだ。浅沼がした中国での発言が、やがて自らを死に追いやる遠縁となる。
二人の人生の一瞬の交錯を描いた作品です。
たぶん僕、沢木耕太郎の作品初めて読んだと思うんですね。ノンフィクション作家としての評価は知ってるので、本書も素晴らしい作品なんでしょうけど、僕には難しい作品でした。というのも、僕は政治や昭和史に関する知識がほぼゼロだからです。
そもそも僕は、右翼と左翼が何なのかもよく分からない人間なんです。右翼と左翼が何故対立してるのか、それぞれの政党がどちらの立ち位置なのか、無産運動家がどんな活動をしてるのか、みたいな政治に関わる部分は基本的にまったくわかりません。また、どの時代に誰が影響力を持っていたのか、その時代の国民の空気、どの時代にどんな重大事件があったのか、安保闘争ってそもそも何?みたいな、昭和史についての知識も基本ゼロなので、読んでてもよく分からない部分がたくさんあったんですね。だから、本書が難しい理由は、沢木耕太郎に責任があるとかそういうことではなくて、ただ単に僕が知識なさすぎる、ということなんですけども。
だから、特に浅沼稲次郎の方の話はチンプンカンプンだったんですけど、山口二矢の方は結構面白かったですね。右翼がどうのこうのという話は全然分からなかったんですけど、山口がどんな環境で育ち、誰からどんな影響を受け、どういう思考によって暗殺を思い立ったのかという流れが、もちろん膨大な資料を基にしているとはいえ作者の想像みたいなものも多々含まれてるんだろうけど、それでもなるほどと思わせるような流れがありました。純粋で一途で、周りが止めてもブレーキの利かなかった少年。自分の正しさを一片も疑うことなく死んでいった少年。その潔さみたいなものはかなり強く感じられました。浅沼稲次郎を暗殺したことにどういう意味があり、どういう影響を与えたのかという点について、僕は基本的に理解出来ていないし、そもそも人を殺すのはいかんと思ってるけど、それでも、山口のような純粋に日本のことを考える若者の存在というのは、方向性は正しくなかったかもしれないのだけど、貴重な存在だったのではないかなと思いました。
まあそんなわけで、僕の知識不足のためにあまり深く読めなかったですけど、政治とか昭和史とかに普通並の知識を持ってる人なら結構楽しめるんじゃないかと思います。沢木耕太郎は、政治の話じゃないノンフィクションを読んでみようかな。
沢木耕太郎「テロルの決算」