内容に入ろうと思います。
本書は2編の中編が収録された作品です。
「お縫い子テルミー」
テルミーは一人島から出て、東京・歌舞伎町で暮らしている。暮らしているとはいえ、家はない。島にいる頃からテルミーの家族は、依頼人の家に住みこんで衣類を仕立てる、という仕事を生業としてきたのだ。
東京に出てきた当初、仕立ての仕事では食べていけないだろうと判断したテルミーは水商売の仕事を始める。そこでテルミーは、女装の歌手・シナイちゃんに出会う。シナイちゃんとの出会いが、流しの仕立て屋「お縫い子テルミー」の誕生のきっかけとなった。しかしそれ以上にテルミーにとって、シナイちゃんは大事な存在なのだけど…。
「ABARE・DAICO」
小学生の小松君は、母子家庭で貧乏。父親とは別居状態。普段働いている母親の代わりに、家事全般はやっているし、家計の状況を知っているから、なるべくお金を使わないという金銭感覚もしっかりしている。
そんな小松君は、近くのスーパーの伝言掲示板みたいなところにある張り紙をした。「夏休みの間、留守番します。1時間100円。お母さんを助けたいんです」その張り紙を見て連絡してくれた人の留守番に行くのだけど…。
というような話です。
「お縫い子テルミー」は正直あんまりよくわからないなぁ、という感じだったんですけど、「ABARE・DAICO」は凄い好きです。
「お縫い子テルミー」は、設定は凄い好きなんです。流しの仕立て屋っていうのが、吉田篤弘の「空ばかり見ていた」の流しの床屋みたいな感じで、設定は凄くいいと思います。ただ、テルミーのシナイちゃんに対する叶わぬ恋心みたいなのは、正直イマイチ僕にはよく分かりませんでした。全体的なストーリー展開は、うーむ、という感じ。
一方の「ABARE・DAICO」はよかったですね。小松君のキャラが実に素敵です。小松君は、同級生の水尾君のことを凄いと思っていて、出来る限り対抗してやろう、と思っている。水尾君は何でも知ってるし、難しい話をしてくるし、それに背も高いしカッコいい。だから小松君は、まず背を伸ばすために毎日牛乳を飲むこと、そして言葉をたくさん知るために辞書を必ず読むことを心がけているのだ。
それだけでもなんだかおかしいキャラで好きなんだけど、家計を助けるため(とある理由でお金が必要になったのだけど、家計が苦しいことを知ってるから母親には言えないのだ)にアルバイトをするなんていうところも素敵。しかしそれが、小松君の予想だにしなかった事態を引き起こしてしまうわけです。それを知った小松君はショックで、毎日口から真っ黒なドロドロのものが溢れでてきてしまいそうになる。でも最後は、それまで『少年らしさ』の殻の中にいた小松君がちょっとそこを打ち破れたみたいな展開になっていって、凄くいい。大人の知らないところで子供は傷ついていくし、子供だからと言って子供らしいことを考えているわけでもない。大人と同じように悩むし、抱えきれないものを抱え込んでいたりもするのだ。そういうところがうまく表現されてていいな、と思った。
栗田有起の作品は初めて読んだけど、文章の雰囲気みたいなものは結構好きだな、と思います。文章が巧いのかどうかは正直よくわからないけど、僕には合うな、という感じがします。ちょっと他の作品も読んでみるかもしれない、と思わせるぐらいには興味の持てる作家です。ちょっとまた気が向いたら別の作品も読んでみるかもしれません。僕としては「ABARE・DAICO」がオススメです。興味があったら読んでみてください。
栗田有起「お縫い子テルミー」