内容に入ろうと思います。
本書は9編の短編が収録された短篇集です。
「遊園地の幽霊」
遊具がまったく動かない遊園地にいる夢を頻繁に見る女性。不安に感じて医者に行くと、それは「遊園地の幽霊」のせいだ、と言われる。あなたが住んでいる辺りは昔遊園地で、その周辺に住んでいる人は一様に同じ症状を訴えるのだ、と。
「海に沈んだ町」
大昔に飛び出して以来帰ったことのない故郷が、海に沈んだらしい。妻に、一緒に見に行きましょうと言われてしばらくぶりに帰ることに。
「団地船」
団地がそのまま船になった団地船。かつては一世を風靡し、時代の最先端としてもてはやされた団地船ももう今となっては廃れてしまった。かつて団地船に引っ越していった同級生のことを思い出す。
「四時八分」
午前四時八分で時間が止まってしまった町。旅人はその町を通り抜けるのに、その町のガイドを必要とする。
「彼の影」
影が反乱を起こし、自然の法則に従わなくなってしばらくしてからも、私の影はそれまで通りだった。でもある日私の足元に、別の男の人の影がきてしまった。
「ペア」
ペアはお互いに何か素晴らしいものを生み出す、その可能性を秘めた関係性なのに、私はパートナーのためになっていないどころか、邪魔ばかりしているのではないかと思う。恐る恐る、パートナーにペア解消の手紙を出してみる。
「橋」
丘陵を切り開いてできた住宅街の前にある橋を付け替えるので賛同して欲しい、という女性がやってくる。しかしその女性、あの橋は交通量が少ないから、今よりももっと粗雑な橋に付け替えるのだ、と言ってきかない。
「巣箱」
この町でだけ、何故か巣箱の大量発生に見舞われている。見つけ次第すぐにたたき壊さないと、取り返しのつかないことになってしまう。噂では、わざとたたき壊さずにいる人がいて、その人のせいで大量発生が起こっているのではないか、とまで言われているのだが。
「ニュータウン」
ニュータウンがどんどんと減少していって、ついに最後の一つになった時、政府はそのニュータウンの『保護』を決断した。周囲に鉄条網を張り、中の住人を外に出さず監視し続ける。『ニュータウンの文化を汚さないため』という名目で軟禁生活を余儀なくされた人々と、その監視を任務とする人々。
というような話です。
まあまあ、という感じの作品でしょうか。
これは恐らく、作品自体がどうこうと言うよりも、僕の『慣れ』が原因だろうなぁ、という気はします。
三崎亜記という作家は、僕の表現で言えば『日常の延長上にある奇想』をメインに物語を作る作家だと思います。『遊園地が夢を見せる』とか『午前四時八分で時計が止まっている』とか『影が反乱を起こす』とか、『粗末な橋に付け替える』とか、そういう、現実には起こりえないけど、現実とある程度陸続きだなと感じられるような、そういう設定を巧みに作り出して物語を生み出しているなぁ、と思うんです。
三崎亜記という作家が出始めた頃は、その『奇想』が物凄く新鮮だったんですね。「となり町戦争」はびっくりしたし、「バスジャック」もかなり好きです。でも、段々その『奇想』に僕自身が慣れていってしまったんだと思うんですね。あまり新鮮さを感じられないようになってしまった。それで、あまり物語を楽しめなくなっているんだろうなぁ、という気がします。
あと、本書に特徴的な点としては、一編一編がちょっと短いんですね。最後の「ニュータウン」だけはある程度まとまった長さがあるけど、他はかなり短いです。ほとんど、設定だけ提示して終わってしまうような作品が多くて、ちょっともったいない気もしました。もう少し長さがあれば、それぞれの話の魅力がもう少し引き出せるような気がするんですけども。
でも、三崎亜記の作品に通底する、『人間以外の「何か」としか表現しようがない存在による意志』みたいなものはさすがだなと思います。無機物や自然や、あるいは名前をつけるとしたら『神』とでも呼ぶしかないようなものたちが意志を持つ(持っているように見える)という雰囲気は大抵どの話にもあって、これはさすがだなと思います。特に、無機物が意志を持っている風に思えるような話は結構面白いと思いあmす。
僕がこれはよかったなと思う話は、「彼の影」と「橋」と「ニュータウン」。「彼の影」は、ありそうでなかった感じの話で、ラストは正直もうちょっと別の形がよかったけど、設定が凄く面白いです。「橋」は、みすぼらしい橋に付け替えることは当然だという女性の意見に、真っ当な切り返しがなかなか出来ないでいる姿というのが面白いです。こういう事例って意識してないだけで、結構日常の中にもあると思うんですよね。凄くおかしなことを言ってる人間の意見が何故か通っちゃう、みたいな。
それの最たるものがラストの「ニュータウン」で、これはある程度長さもちゃんとあったからだと思うんだけど、面白い作品だと思いました。ニュータウンを保護しなくてはならなくなったいきさつ、そこからの惰性、そして事態の急変と、物語としても実にうまくまとまっているという感じがしました。なんとなう読んでて、マンガを規制する都条例に繋がる違和感を覚えたりもしました。
まあそんなわけで、三崎亜記の作品に触れたことがない、という人に勧めるのはアリだけど、三崎亜記の作品に結構触れている人にはそうオススメも出来ないかな、という感じの作品。やっぱり、一編一編の長さがちょっと短すぎるというのは、この著者の作風にはちょっと致命的かな、という感じもします。
追記)amazonのレビューでは、かなり評価の高い作品でした
三崎亜記「海に沈んだ町」