2005年04月28日

ヒトクイマジカル―殺戮奇術の匂宮兄妹―(西尾維新)

運命、偶然、縁、因果…なんと呼んでもいいけれど、そうしたものを信じるだろうか?
運命の出会い、偶然の産物、袖振り合うも他生の縁、因果応報。自分の人生が誰かに操られているとか、もう未来は決まっているだとか、運命には逆らえないだとか、そういうことを考えたことはあるだろうか?
あるだろう。それが普通だと思う。
物語。この世は物語の世界で、僕らはその登場人物。誰が主人公なのかわからないけど、とにかく未来は記述されているし、大筋で運命を変えることはできない。誰もがその物語の「中」に存在し、「外」から傍観することを許さない。そう、誰とも、何とも関係しない人生なんか、端から不可能なのだ。
僕は、正直、本当にそうだと思っている。この世の「作者」が、既に大まかな流れを組んでいて、僕らはそれに従っているだけ。突然物語の世界からいなくなっても、ありえないことが起こっても、それが「筋」であって「必然」。
本作は、そういう話だ。
<ぼく>は、前回の怪我も癒え、大学にも普通にいくようになる。ボロアパートの住人(剣術家の浅野みいこさんや、前前回助けた(のか?)紫木一姫、前回登場した異端の研究者春日井春日、他にも、魔女である七々見奈波や死神の石凪萌太など、魅力的な逸材揃い)とも普通の生活を送っていた。
木賀峰約、の名前を聞くまでは。
初めその名前は葵井巫女子からもたらされた。「あなたが〜することを私は予測していました」が口癖の女性。その時は、そういう人がいる、というだけの話だったが…
その木賀峰約自身に<ぼく>は呼び出される。そして、彼女から聞かされた話は、とても荒唐無稽。曰く、「不死身の少女」がいる。曰く、「死なない研究」をしている。曰く、「モニターのバイトをしないか?」という誘い。さる事情からお金を必要としていた<ぼく>は、ひとしきり悩みながらも、そのバイトを引き受ける。ただ、2・3人友達を紹介してくれと言われる。
さて、一方、唐突に、匂宮兄妹というのが登場する。先に現れるは匂宮理澄。妹の方で、何故か拘束衣(あの、手を前で十字に組む形で固定される、あの身動きのとりづらいこと請け合いの衣装)を纏い、倒れていたところを、さる事情から一つ屋根の下にいる春日井さんが、「拾ってきた」。ハイテンションで絡んでくる理澄は、自らを「名探偵」と名乗り、あの悪名高き零崎人識を探している、と告げる。
さて後日、またも拘束衣を着て倒れている理澄ちゃんを発見…と思いきや、なんとそれは別人格の出夢の方だった。こちらはこと人を殺すことに掛けては天才的な、まさに生来きっての殺し屋。腕を拘束されているにも関わらず、歯や足で充分普通に渡り合えてしまう。まあ、そういうけったいな人格と出会ってしまったわけだ。
さて、そうして、友達二人として姫ちゃんと春日井さんを紹介することにした<ぼく>は、適正試験のため木賀峰助教授の研究所(山奥の奥の奥に位置した、まさに陸の孤島のような場所)に赴く。そこには、まさに木賀峰が「不死身の少女」と称した女の子(にしか見えない)朽葉円がいた。そう、どんなに低く見積もっても100歳はゆうに超え、800歳ぐらいだろうと推定されている、外見上少女にしか見えない朽葉。春日井さんは、彼女に出会うなり帰ってしまうが、まあ仕方ないのだろう。
そしてもう一人。なんと同じく適性検査を受ける人物、名前こそ変えていたものの、そこには見間違うことなき、あの匂宮理澄がいた。しかしまあ、縁だとか運命だとか感じずにいられない。
そうしてそうして、ついについに…
なるほど、シリーズ中で、本作が一番好きだ。
狐面の男が出てくる。事件が「起こって」しまって、そして、「なかったこと」になってから出会った人物。彼は、運命には逆らえない、と考えており、そして究極の目的、そう、記述された物語を読もうと、努力をしている。
なるほど。因果から外れた存在。物語から外れた存在。なるほど、面白い。
なんとなく、京極夏彦の「絡新婦の理」を思い起こさせる作品だった。そっちも、偶然を題材にした作品だったように思う。物語の中で「偶然」という題材を扱うと、その「偶然」を作者が意図的に支配できてしまうために多少興ざめになりかねないけど、どちらもそんなことはなく、素晴らしくまとまっている。
今回は、<ぼく>が崩壊する。もちろんそれは、「崩れそうな積み木」が「崩れた」というだけの話で、もはやそれは時間の問題だったわけだけれども、それでも彼は壊れ、壊れたお陰で少し変わった。
そのとき、浅野みいこさんがいてよかった。すごくかっこいいし、素敵だ。あんな人いるわけないよなぁ、と思うのもまた物語の楽しみ方。
そうだ。僕は彼の考え方に賛同してしまっている。僕が普段考えていることを、少し極端にしたようなことを彼は考えている。それが、どうしようもなく魅惑的で、とめどなく素敵で、彼に出会ったみたい欲求や、彼と話してみたい願望が益々と現れてきてしまっている。
そう、勝手に言わせていただければ、僕は<ぼく>と似ている、と思う。
そう、だから、そんなぼくにも、みいこさんみたいな存在がいたら心強いだろうな、とそんな想像をしてしまうのだ。
ますます背景がはっきりとしてきた<戯言>シリーズ。<ぼく>の生きる世界がどのように支配されているのか、どんな力がどう均衡しているのか、果たしてその中で<ぼく>や玖渚は一体どういう立場なのか。哀川潤という存在。そういう、現実の世界とは僅かな接点(地名など)を残して、どんどんとその内実が明らかになっていく世界。そうして、その世界の中でも「特異」な位置を占める、「特異」なキャラクター達による青春エンタ。騙されたと思って、とはいえ騙されても責任は持ちませんが、是非読んでください。

西尾維新「ヒトクイマジカル」


ヒトクイマジカル

ヒトクイマジカルノベルス
 

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